歯列接触癖(TCH)と顎関節症
顎関節症にはTCH(歯列接触癖)と歯ぎしりが大きく関与していると言われています。
顎の筋肉に過度な負担のかかるTCHと歯ぎしりは、筋肉の緊張や疲労に繋がり、顎関節への負担が増えるため、顎関節症だけでなく様々な不定愁訴に関わっていると考えられます。
写真のように完全に咬み合わせがずれてしまう方もいます。
TCH(歯列接触癖)とは
大半の方はいわゆるくいしばり・かみしめのような㎏単位の強い力の方が様々な問題を起こすと考えますが強い力は短時間(1.5分)しか持続できないことが研究より判明しております。対して、TCHのような弱い力は2.5時間持続してしまうということが明らかになっております。TCHによる負荷の累積力はくいしばりの実に60倍にもなります。本来、上下の歯は、口を閉じたとしても接触することはありません。歯が接触するのは会話や食事の時のみです。
本来上下の歯が接触する時間は、調査結果から1日平均17.5分というデータも出ています。
大事なことは歯を当てる癖はTCHではなく、歯を当て続ける癖がTCHです(これ非常に重要)。
また顔の骨格によりますが、えらの張った四角い形の顔の方は丸顔の片と比べて筋肉の緊張が強く、咀嚼にメインで使用する咬筋が肥大しているケースがあります。こうなると患者さんがTCHをしているいないに関わらず、最悪勝手に咬筋が緊張して、頭痛肩凝りも含めて
頭部全体が緊張状態になっている方がいらっしゃいます。当院ではこういった患者さんを治療するためにボトックス治療を取り入れました。
何もしていない無意識下では、
上下の歯はほんの少し離れています。
何もしていないのに上下の歯が咬み合った状態で、無意識のうちに過度な緊張が顎関節に負担を与えています。
顎に過緊張のない理想的な状態です。
何もしていない無意識下では、
上下の歯はほんの少し離れています。
顎関節症またはその恐れのある状態です。
何もしていないのに上下の歯が咬み合った状態で、無意識のうちに過度な緊張が顎関節に負担を与えています。
上下の歯を接触させる癖(TCH)を持つ人は、歯の接触時間が通常の人よりも長いため、顎の筋肉に過度な負担がかかっています。顎の筋肉が疲弊が続くと、顎関節が過度な緊張状態になるため、血の巡りも悪くなります。顎関節症になる方の約50%にこのTCHがあります。つまりTCHがある方は顎関節症になりやすいと考えられるわけです。
歯ぎしり(ブラキシズム)
「歯ぎしり=ギリギリと歯と歯をこすり合わせる状態」をイメージする人も多いでしょう。歯ぎしりは就寝中に起こるので、自分の歯ぎしりに気がつかない人も多いです。ただ、実際は約9割以上の人が、就寝中に歯ぎしりや食いしばりをしています。歯と歯に負担がかかるため、筋肉の緊張や疲労、顎関節への負担も増す一方です。歯ぎしりは咬合習癖(こうごうしゅうへき)として主に3つに分類されます。
- ●グライディング
- グライディングは、臼磨運動(きゅうまうんどう)と呼ばれる上下の歯を強くすり合わせ、「ギリギリ」というきしり音が聞こえます。寝ている時に多い一般的な歯ぎしりです。歯と歯の過剰接触により、エナメル質や象牙質を損傷する可能性があります。
- ●クレンチング
- クレンチングは、食いしばりの1つで、上下の歯を強く?みしめる癖のことです。寝ている時に限らず、日中にも起こります。音が出ないことも多く、自覚症状もほとんどありません。
- ●タッピング
- タッピングは、上下の歯をカチカチと過剰に噛む癖のことです。昼夜を問わず起こり、自覚症状もありません。
TCHや歯ぎしり以外にも顎の痛みを悪化させる習慣があります。
「あなたは大丈夫?顎関節症の人がやってはいけないこと」もあわせて確認しておきましょう。
TCHはどんなときにしている?
基本的には緊張している場面でTCHはおこります。
- ストレスがあるとき
- 習慣化した作業で集中するとき(パソコン)
- 精密作業
- 家事(そうじ・料理)
- テレビ、スマホ・ゲーム
- 重いものを持つとき
- 寒い時
- 下を向くとき
- 車の運転中
- 睡眠中
このように日常のよくある行動の中でTCHは生じます。
寝起きに顎の周囲が疲れている方は睡眠中にTCHを起こしている可能性大です。
朝起きた時は何でもないのに午後・夕方になると頭痛だったり顎周囲のだるさを感じる方は
仕事中・勉強中のTCHを起こしている可能性大です。
TCHにより歯が浮いた感じ、歯の違和感、歯が接触していないのにじんわり痛い、歯が染みるといった症状がおこることがあります。
何故このようになるかと言うと歯と歯が埋まっている歯槽骨(顎の骨)の間には歯根膜という感覚受容器があるのですが
この部分で血のめぐり(虚血)が悪くなり、老廃物が溜まりしまいには炎症を起こします。正座を10分以上していると足がしびれてじんじんしてきますが、それが歯に起きてしまうと上記のような症状を起こすわけです。
- 舌の先端あるいは周縁部に歯の圧痕がある
- 頬粘膜に咬合線がある
-
唇を閉じた時に上下の歯が接触しているかいないか?・唇を閉じたときの「歯の位置」
→「上下の歯が触れていない」・・・TCHなし
→「上下の歯が触れている」・・・TCHあり -
唇を閉じたとき、5分間保つならどちらが楽か→「歯を離しておく方が楽」・・・TCHなし
→「歯をつけていた方が楽」・・・TCHあり
TCHによる口腔内への影響
- 歯の慢性咬合痛
- 歯周病の悪化
- 詰め物や被せ物が外れる
- 被せ物が壊る
- 慢性的な口内炎
- 歯並びによる咬みあわせの違和感
- 舌や頬の内側を咬んでしまう
- 舌の痛み、しびれが出る
- 入れ歯を装着しているとき噛むと痛くなる
矯正治療への影響もあります
- 咬み合わせが深くなる
- 前歯の凸凹が出やすい
- 矯正治療中に歯が動きにくい
- ブラケット脱離の原因
- 装置破折の原因
- 歯根吸収の要因になる
- 矯正時の痛みの増加
TCHをコントロール~触れたら離すを習慣化~
- 歯が接触するとき咀嚼筋が活動することを認識する
- 家や職場に「歯を離す」「力を抜く」など書いたメモ(付箋)を多数貼る
- 歯が接触していることに気付いたら離す癖を作る。その際、深呼吸をし、フーっと息を吐くことを意識する
- 10~20分に一度意識的にフーっと息を吐く癖をつける
患者さんと話していると上下の歯と歯は普段当たっているものだと思っている方が大変多いです。
唇が閉じていても歯と歯の間には2ミリ程度の安静空隙という隙間があるのが正しい状態です。TCHを治すためにいつも歯と歯を離しておこうとするとかえって症状が悪化することがあります。当院では常に歯を離すようにという説明は決してせずに、歯が当たること自体は悪くなく、当たり続けると問題が起きる可能性があることとご説明し、20分に一度息を意識的にフーっと息を吐けば必ず歯が離れるので気楽な気持ちでTCH改善に取り組むこと、上下の歯が接触していることに気がついたら息をフーっと吐く癖をつけること(認知行動療法)を指導しております。また当院ではオーダーメイドマウスピース(5,000円)を製作し、物理的に奥歯が当たらない状態を作り出し、歯の接触しない感覚を養います。これを意識して取り組んで1~3カ月経つと上下の歯が当たらなくなることが普通になってきます。
大抵の方はこのマウスピースと認知行動療法で改善されることがほとんどです。
当院はTCH研究会に所属しており、適切な指導を受けることが可能です。
その他の顎関節症の治療法やセルフケアについても「顎関節症の主な原因は?治療法や簡単にできるセルフケアのやり方も紹介」を確認しておきましょう。
KAZUKI.ISHIHATA